豪徳寺と招き猫
豪徳寺の前身は、文明12年(1480年)に世田谷城主・吉良政忠が建てた弘徳院です。寛永10年(1633年)に世田谷が彦根藩領となり、藩主井伊家の江戸の菩提寺になりました。万治2年(1659年)、2代藩主井伊直孝の戒名にちなんで豪徳寺と改められています。宗派は曹洞宗です。
寺が伝える招き猫の由来はこうです。鷹狩りの帰りに寺の前を通った直孝が、門前の猫に手招きされて立ち寄ると、まもなく激しい雷雨になりました。雨をしのぎながら和尚と話ができたことを喜んだ直孝は、寺の再興を支えたといいます。寺はこの猫を「招福猫児(まねきねこ)」として祀っています。浅草の今戸神社など、招き猫発祥をうたう場所はほかにもあり、話の細部も伝える人によって少しずつ違います。
境内の見どころ
松並木の参道を進むと山門があります。延宝5年(1677年)建立の仏殿と、延宝7年(1679年)に鋳造された世田谷区内最古の梵鐘は、いずれも区の有形文化財です。三重塔は2006年に完成した新しい塔で、高さは22.5メートル。軒下の十二支の彫刻のなかに招き猫が紛れているので、探してみてください。
招福殿は1941年の建立で、2022年に改修されました。隣の奉納所には大小さまざまな招き猫が並び、どれも右手を挙げています。豪徳寺の招き猫は小判を持っていません。猫がもたらすのは「縁」で、それを生かすかどうかは本人次第、というのが寺の考えです。
伽藍の奥には井伊家の墓所があり、2008年に国の史跡に指定されました。井伊直弼をはじめ歴代藩主が眠っています。今も使われている墓地なので、静かに歩きましょう。
- 招き猫は寺務所で授かれます。寺務所の受付は15時ごろまでで、境内より早く閉まります。
- 奉納に決まりはありません。いったん持ち帰り、願いがかなってから奉納所に納める人が多いです。
- 招き猫には落書きをしないでください。寺がはっきりとお願いしています。
豪徳寺の一年
豪徳寺には大きな祭りはあまりなく、季節の花と木を楽しむ寺です。寺が挙げるのは春の梅・桜・牡丹・つつじと秋の紅葉で、都内の紅葉は例年11月下旬から12月上旬が見頃です。三重塔の写真を撮るなら春と晩秋がいちばんきれいです。写経会も決まった日の午後に開かれているので、日程は公式サイトで確認してください。
周辺には大きな行事が二つあります。宮の坂駅すぐの世田谷八幡宮では、9月の秋祭りに境内の土俵で、江戸時代から続く奉納相撲が学生力士によって行われます。12月15・16日と1月15・16日には、天正6年(1578年)の楽市に始まる「世田谷ボロ市」が数駅先の代官屋敷周辺のボロ市通りで開かれ、骨董や植木、道具、食べ物の露店が数百軒並びます。
- ボロ市は昼ごろがいちばん混みます。朝の開始直後に行くのがおすすめです。
時間帯・混雑・マナー
拝観時間は6時から17時で、拝観料はかかりません。海外でも知られるようになり、昼前や週末は招き猫の前が混み合います。平日の早朝がいちばん静かで、三重塔をひとり占めできることもあります。
墓地のある現役の寺で、周りは住宅街です。大声を出さず、通路を外れず、奉納所の棚に登ったり猫を並べ替えたりしないようにしましょう。寺は、旅行会社などと提携した公認ガイドツアーは行っていないこと、境内での営利目的のガイド・撮影・イベントには事前の相談が必要なことを告知しています。自分用の写真なら、手早く撮って通路をふさがないように。
- 招き猫やお守りのために現金を用意しておきましょう。
- 世田谷線で何駅か寄り道するなら、一日乗り降り自由の「世田谷線散策きっぷ」がお得です。
アクセスと世田谷線
最寄りは東急世田谷線の宮の坂駅で、徒歩約5分です。小田急線の豪徳寺駅からは住宅街を歩いて約15分。世田谷線の山下駅は小田急の豪徳寺駅のすぐそばなので、乗り換えも簡単です。
世田谷線は三軒茶屋と下高井戸を結ぶ約5キロの2両編成の路線で、運賃は均一、駅の間隔も短めです。1925年に旧玉電の路線として開業し、招き猫のラッピング電車が走った年もあります。宮の坂駅前の世田谷八幡宮、上町駅・世田谷駅のボロ市通り、終点の三軒茶屋(世田谷パブリックシアターや小さな飲み屋が多い街)と、半日でゆっくり回れます。渋谷からは田園都市線で三軒茶屋へ出て乗り換え、下北沢へは小田急線の豪徳寺駅から数駅です。